* 千の言葉よりも君の一の表情 |
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日が暮れ屋敷では大勢の召使達が給仕に慌しく動き回ったり、楽師たちが今宵の晩餐に相応しい曲を演奏していた。やがて、ひときわ大きな扉が開かれ、・は姿を現した。
その少女は単に造作が美しいだけではなく、両親の愛を一身に受け、大切に大切に育てられ聡明で凛とした中に純粋性を保つ。水晶のごとき透明さを…
居合わせた者は誰一人言葉を発する事も出来ず、ただ、小波のような気の乱れと、声もなく息を呑む音が微かに響くだけだった。
「おいおい、これじゃ近づけないじゃんかよ」
今宵の最大の目的である少女はあっという間に取り囲まれ、せめて自分の家柄や美しさを誇示したい、名前なりを覚えて欲しいと必死な交戦を繰り広げていた。
その様に気後れしていたのはディアッカ・エスルマン その人だった。
「仕方ないだろうな、あの家の令嬢の社交界デビューだからな」
男達の間から垣間見えた唇は桃色で珊瑚の様だったが、緊張しているのかあまり艶がない。顔色も少々蒼ざめていて見え、イザーク・ジュールはそれが気になっていた。
「エスコートしているのハイネじゃないですか?流石ですね…」
「あぁ〜、ニコル〜早く俺らを紹介してよ〜〜、このままじゃハイネに持ってかれちまうよ!」
ザフトきってのプレイボーイ、ハイネ・ヴェステンフルスは、眉目秀麗で実力もある人物だった。
とニコルが幼馴染で仲が良い事を利用し、に取り入ろうと画策したミゲル・アイマンはと良い雰囲気で談笑するハイネの姿に苛立っていた。
ディアッカ、ミゲル、ハイネの3人はが目的で、ニコルはその手段として、そしてイザークは母エザリアの強制命令で 今宵の社交界に集まっていた。
壁や床も白い大理石で、その壁に掛けられている絵画の木々や小鳥が色鮮やかに描かれていた。そしてその下に置かれた長椅子に腰掛けたり、その脇に立っている彼ら4人の姿は見事な一幅の絵画だった。
ニコルの手招きには男達を掻き分け、すぐさま歩み寄ってきた。
ごくごく柔らかい生地を幾重にも重ね、金糸銀糸の縫い取りをし繊細なドレスの上に白い羽織る形の長い丈のようなものを着ていて、それが歩みの度に羽衣のように揺れた
すみれ色の髪は結い上げて、金と真珠の小さな宝冠で飾っていた。
「ニコル!良かった、私もう帰りたくて…」
は眉間に可愛らしい皺を寄せた。
「じゃ、俺と逃げだしちゃう?」
依然腰に腕を回したままのハイネからその身を引っ張り寄せたミゲルには小さく首を傾げる。頭の動きに合わせて、艶やかなすみれ色の髪が重く流れるように揺れた。
女の扱いには慣れているディアッカであったが、この二人を前に手も足も出ないでいた。
鷲に狙われている鳩のように危ういにニコルは可愛い肩を竦めながらもそれぞれを正直に紹介した。5人共がザフトの軍人である事には驚いている様子でその手が少し震えていた。ハイネは長椅子に座るディアッカとイザークを払いのけ、震える手を取ったまま自らの傍らに座らせた。
「どうか無理だけはなさらないで…」
珊瑚にも似た艶やかなその唇は微かに戦慄いていた。それぞれ手にする良く冷やされた発泡性のアルコールを口にし、顔を見合わせた。
ニコルの話によれば、の兄のMIAの報告をつい先日受けたばかりだという。
「大丈夫ですよ、俺は貴女が待っていてくださるなら、絶対に貴女のもとへ帰ってきますから」
優しくハイネは自らの手を伸ばし、肘掛の上のの手の甲に重ねた。は一瞬身動ぎをしたが振り払う事はせず、その温かさに浸った。手を取り合う、それだけでこんなにも魂が溶け合う、何も語らずとも全てが理解し合える歓びを感じた。
「伊達に赤きてないですからね」
「ミゲルは緑だけどな」
「あ!コラ!それ言うな!!」
歯の浮くような台詞で口説く3人を馬鹿にした顔でイザークの突っ込みに和んだ場の空気に呑まれ、辛そうだったが笑った。
は首を傾げながらも真剣な面持ちで身を乗り出し、その頬が、唇が、触れそうな程ディアッカに顔を近づけた。
「私の髪とディアッカ様の瞳、同じ色ですわね」
ディアッカは抱き締めたい、その唇を今ここで奪いたいという衝動を最大の自制心で抑えた。もし、ここでそんな事をしてしまえば4人に殺されるだけでなく、との未来が全てが終わってしまいそうな気がしていた。
「、むやみにそうやって顔を近づけたりしちゃだめですよ」
「ディアッカは自制心の欠片もないからな」
「おい!イザークいい加減に…」
ディアッカはこれ以上の顔を間近に見ていれば、自制心の箍も吹っ飛んでしまうと危機を感じたニコルは純真なを汚されないように引き離した。
は先ほどから、突っかかってばかりいるイザークが気になった。
単に機嫌が悪いのならいいのだけど、どこか気になるその髪色に胸がつかえた。
「がこの中の誰かと恋する事を僕は止める気はありませんが…愛すれば愛するほど、が辛い思いをするようになりますよ」
「ニコル?」
は自分の腕に置かれたニコルの手を見、恍惚な瞳を覗きこんだ
「人と恋することを止めなさい。と言って止められるものではないですし、それはその人の問題で、恋に傷つくのもそう悪い事じゃないんですよ」
「思いっきり傷ついてみるのも、あるいは幸福な事かもしれないしな!」
「本気で愛したら、愛する人と一緒いるだけで幸福なものらしいな、女ってやつは」
女性経験が豊富な3人。それは身をもって感じた哲学か?
は少々身を引き、外の空気を吸いにその場から逃げてしまった。
「泣かしましたね?」
ニコルは大事なを泣かした事に黒いオーラを纏い、睨みつけた。
「ハイネが変な事言うからだよ!」
「おい、なんで俺なんだ?」
「ハイネがベタベタするからじゃね?」
「イザークが怖いからじゃねぇのか?」
一同そろって壁にもたれかかり素知らぬふりをしているイザークを睨んだ。
「なっ!なんだその目は!!」
冷たい4人の視線にすこし後退し、運ばれてきた新しいグラスと空になったグラスを交換し、それを飲み干した。水分を含んだ唇は艶やかに輝いた。その様は男にしておくには勿体無いほど美しかった。
「くだらん!俺は帰るぞ!!」
「おい、イザークそう怒るなよ」
「煩い!ディアッカ、俺は怒ってなぞいないわ!!」
あと追うディアッカは機嫌の悪いまま帰らせては、エザリア様にイザークはきっと怒られ、そしてそのストレスが自分に返ってくる事を恐れた。
「いいじゃん、ライバルは少ないに越した事ないからな」
「俺らに勝てる自信もないだろうしね」
オレンジの髪をかき上げ流し目を気取るハイネと短い金髪の下から好戦的な視線を送るミゲル。後輩の中でもイザークやアスランはからかい概があるのか良くこの二人を相手に遊ぶ癖があった。
「ふん!生憎俺は、お前達みたいに女と遊ぶ事しか考えられないお気楽な頭してないのでな!…それにあいつは俺のモノだ」
「は?」
「なんだそれ?」
テーブルに叩き置かれたグラスは割れてしまうのではないかと思うほどの音を立て、その不機嫌さを表していた。足早に扉を開いて帰るイザークの姿を呆然と見送るしかできなかった。
「どういう意味だ?まさか対の遺伝子っていうのか?」
「んー、あいつ自信過剰だからなぁ…」
「二人が煽るからじゃね?」
「もう、その辺でやめましょうよ…」
嬉々とイザークを肴に話す3人にニコルは頭を抱え、軽く眩暈を覚えた。
そして、話はやはりのことになり、ニコルに根掘り葉掘り聞き、戻ってきたときの作戦をねるのであった。
壁際の絵画のような4人組は笑い声を上げ、存在だけでも目立つのにいっそう人目を引いていた。
は履き慣れないヒールを脱いで裸足で歩いていた。石畳の冷たさが心地よい。庭園の中央の泉までいってその縁に腰を下ろした。静かな庭園はただ水の流れる音と風に吹かれた衣擦れの音だけだった。
「貴様、何をしている?」
小さい身体をビクつかせ、振り返るとそこにはアイスブルーの瞳が、満月の近い月の冷たく冴えた光を映し鋭く綺麗に輝いていた。
「あ、その…ごめんなさい。今戻りますから…」
俯く顔に長く濃い睫が頬の上に扇のように広がっていた。
「何故謝る?何をしているのか聞いただけだぞ?」
「ごめ…」
謝りかけて口を両の手で慌てて塞ぐ、はイザークがとても機嫌が悪いように思えた。たぶん、それは私が気分を害する事をしたからではないかと…心当たりを虚空に求めた。
「あの馬鹿猫はどうした?元気か?」
「え?ジジをご存知なのですか?」
「まぁな…」
自分の猫を知っているイザークには、はっとした。
もしかしたら…と
「ジュール様、もしかして…」
「あぁ、思い出したか?」
そうだ、子供の頃ジジが木から下りれなくなって困っていた時 木に登り助けてくれた名も知らない人にただ漠然と憧れ、それ以来ずっと探していた方。プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳、間違いなくその人だ。珍しい髪色を忘れるわけがないと思っていたが、今日は色々と緊張していてそれどころではなかったのだ。
はようやく顔を上げ、まっすぐにイザークの瞳を見た。
言うべき事は言わなければと、自らの心を奮い立たせた。
「わたくしは…」
イザークは辛抱強く、そして優しくゆっくり紡ぎ出される言葉を待った。しかし、言葉よりもその表情がすべてを語っていた。
「あの時からずっとジュール様を探して…。」
の頬には一気に血が上り赤く染まった。は祈るように両の手を胸の前で硬く組む。早鐘のように高鳴る心臓を抑えるように
イザークは手をの華奢な顎に添え、顔を上げさせた。その頬の上を何故か後から後から大粒の涙が転げ落ちて行く。
「俺を好きか?」
「はい…」
は2つの事に驚いていたが、イザークに見詰められ身体を動かす事が出来なかった。2つの事の1つはイザークにこうして触れられた事であり、もう1つはイザークがの想いを受け入れた事だ。
この時ばかりはアスランの様に包み込むように優しく接してやれない自分に少し苛立った。イザークは手を離し、その生々とした顔をしばらく眺めた。大きく潤んだ瞳、形の良い鼻、花びらの形に似た珊瑚のように赤い唇。イザークはの美しい顔から目を離さなかった。は気恥ずかしさに耐えられず、瞳を瞑った。
「もう見ているだけは飽きた」
そう告げるとイザークはの身体を言葉に出来ない想いを込めて抱き寄せた。
「あんな純情可憐な子がイザーク選ぶとはなぁ〜、俺、結構自信あったんだぜ…」
「あぁ〜、俺もあの子久々に本気だったんだけどなー」
「俺ら馬鹿みたいだな…」
「動機不純だから、天罰なんじゃないですか?」
その様子を屋敷のバルコニーから見ていたハイネとミゲルは、をモノに出来なかったと落胆し天を仰ぎ、ディアッカはイザークの恋の始まりに喜んでいた
そして、ニコルはずっとその猫を助けてくれた人をが探している事、その人に恋している事、そしてその人がイザークである事を知りながらも隠していたのだった。"きっと僕にも天罰ですね"と苦笑し失恋の味を一気に飲み干した
その夜、庭園にはやっと結ばれた二人の上を包む柔らかな月光が祝福するように降り注いでいた。
夜空を飾る 水と光
月に届くほど高く昇る
綺麗・・・ 呟く君の横顔
頬に光るのは水飛沫? ・・・それとも
いつの日か 君の為に
「永遠」という 無くした言葉を
見つけることができたら・・・
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この作品は龍樹様キリ番リクエストにお応えしたものです
・ヒロイン出来れば連載とは違った雰囲気の子が見てみたい
・連載のように強気イザーク
・他キャラと少しでも良いから絡んで欲しい
・最後はラブい感じで
と言う事でしたが、こんなんで如何でしたでしょうか?
私の憧れの龍樹様のご期待に少しでもかすれていたら嬉しい限りです。
今回は初の試みの書き方をしました
ノートにひたすら思いついた文章、言葉を書き並べる
↓
PC上でストーリー展開に合わせて並び替える
↓
肉付けをして仕上げる
と言う私にしては手間と時間をかける手法を取りました
意外と纏めやすくてよかったかも!
外でノート片手に書くってのは新作にはもってこいだった
これから、季節もいいので外で書く事にしようかしら
情景描写が書きやすいし、行きかう人に想いを馳せて遊ぶのは楽しい!
//Al Sa'd al Su'ud//Master;神威
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