kapital.05 風を切り失墜 |
『ぅ…ぃゃ………ぁぁぁぁぁっ!!』 自らの叫び声に目を覚さませば、静寂の夜の中で乱れきった呼吸とひんやりとした汗がいつもの夢だと告げていた 夜の闇はに不眠と悪夢をもたらす ――眠らなければうなされる事もない 分かってはいたけれど、激務に耐えかねた身体が意識を奪い悪夢をこうして呼び戻す 汗で湿った髪をかき上げ、サイドテーブルで温度を失った水に手を伸ばせば 小箱が笑っていた 返事も表情もあるはずのない小箱を開けると、そこには焼け焦げたFAITHの紋章 輝きも威厳も失った煤まみれの紋章を握り締め、勢いよく腕を振りかぶって見せたが、投げ捨てる事は出来なかった 「お前が私を手放さないのではなく、私がお前を手放せないんだろうな・・・」 声高くひとり笑いながらも、頬を伝う悲しい色の水滴だけが暗く冷たい部屋に輝いた * * * 「おい、イザーク?・・・帰るぞ?」 呆然とするイザークが我を忘れて居たのは、ディアッカの声に我を取り戻し飲み込んだ息がその証だった イザークは銀髪の下の瞳を細め、酷薄とした笑みを覗かせる 綺麗に敷かれたテーブルクロスの上に手を置き、ディアッカはイザークを見下ろす 無機質な物音にさして表情も変えずに貌を逸らすと、イザークもまたディアッカを見上げた 絡まり合う視線を捕らえる紫紺の瞳には冷たい光だけが浮かぶ 「何か良い事あっちゃったりした?」 「別に・・・何もない。そうだ、アスラン 貴様 寄宿舎近くのホテルだったな?ついでだ、送ってやる」 「あ・・・あぁ」 エレカは懐かしいプラントの空気をアスランに届けながら、静かに夜の街を走り続けた プラントに居た頃と変わらぬ空気にホッと安堵を覚える 我々軍人がいくら命を賭けても人々が評価を下してくれない事も紛れもない事実ではあったが、こうして変わらぬ街がある結果だけでアスランもまた満足していた ちょっと落ち着かないのは、隣に座るイザークの存在のせいだったかもしれない 「アスラン」 「ん?」 「に貴様、何を渡した?」 「あぁ・・・あれは・・・・・・」 言葉に困ったアスランにイザークは、キリッと目を吊り上げ"答えろ!"と無言の圧力をかける 隠すようなやましいモノではなかったが、のプライベートに関わるモノなだけにイザークに教えて良いものか迷った が しかし、この場で言葉を濁したりしてもイザークの嫉妬にも似た怒りをかうだけだと長い付き合いから肌身に染みてわかっていた ディアッカも二人の前の席に座っていたが、そのは口元に不適な笑みを浮かべて、静かに二人の会話に耳を傾けた に手渡された小箱の中身が気になっていたのは、何もイザークだけではない あの冷徹なが涙する中身、どれだけ好奇心をそそられるモノか 触れれば斬れるような闘気を隠そうともせずにイザークは気迫でアスランの重い口を割らせる 「あれは・・・の婚約者の遺品だ・・・・・・」 「婚約者?」 「遺品?」 イザーク、ディアッカともに一瞬 時が止まった そして、堰を切ったようにイザークの高らかな笑い声でその時は再び流れ出す 「どした?イザーク??」 「大丈夫・・・か?」 薄っすらと涙を浮かべる程笑うイザークにアスラン、ディアッカもポカーンと首を傾げた 驚くことはあっても、そこまで何かおかしい事があるだろうか?と 「いや、なんでもない。気にするな」 狂気・嫉妬と思ったのは二人の勘違いだった イザークの全身から放たれる笑いは自分のくだらなさに向けられたものだった 帰り際に自分に甘く囁かれた言葉に、不用意にも僅かばかりの想像・期待した自分 内に呼び覚まされた、淫らなの感情はにも責任の一端はあった。が 無論、はイザークをからかったに過ぎず、何も本気で誘っていた訳ではない そんな子供騙しわかってはいたけれど、それでも何も知らずに一時でも想像・期待してしまった自分が愚かでくだらなくて、涙が出るほどおかしくて仕方なかった 「流石、どこまでも喰えない女だな」 言葉は冷たいけれど、甘い口唇には満足気な笑みが浮かぶ あまりに一緒にいることが普通で、長く一緒に居るために、もうその冷たさすら気にもならなくなっていたディアッカだったが、前を向きなおしクスリと笑う アスランもまた、つられるように口元に自然と浮かぶ笑みを隠そうしなかった 「イザークも変わったな」 「どういう意味だ?」 「いや、変な意味じゃなく、成長したって言うのかな・・・こう・・・・うまく言えないが」 「・・・当然だ」 「丸くなったってやつ?」 「っ!!ディアッカ!!!」 赤服姿とは異なる、指揮官の白服はイザークが本来持つ優美さや高雅さを際立たせる 昔よりも遥かに有能にみえるぐらいに―― 無論、イザークは元々有能だったが・・・ だが、そうした意味ではなく純粋に逞しくみえたのだ そして、時の流れ・あの悲惨な爪あとを互いの胸に刻みながらも またこうして笑いあえた事が嬉しいアスランだった 抱える痛みに興味はなかったけれど 何に怯えているのか知りたかった もしかしたら、今もひとり怯え続けている? もしかしたら、この俺に救いを求めている? なぁ、教えてくれ 愚かで、不埒なこの俺に――― 2010.04.07 |