* kapital.01 ROUGE ET NOIR |
私はあの日死んだ 痛みも死への恐怖も感じる事無く突然に――― 平凡で退屈な毎日だったけど、まだやりたい事や夢だってあった 甘い恋、激しい恋、ちょっぴり切ない恋、いっぱい思い描いていた ザフトに入隊して赤服着て、MSを華麗に乗りこなし周りから一目置かれるような軍人、そしていつか白服に袖を通したかった もちろん、ウェディングドレスだって着たかった 平凡でも良いから愛する人と結婚して、子供を産み、これまた平凡な生活にも憧れていた なのに・・・・・・なのに・・・・・・・・・・・・ 私は何も果たせず、夢叶う事無くあの日突然殺された ******************************************************************************* 実験体 覚醒開始 再生槽より再生促進液 排出開始 98% ・ ・ ・ ・ 73% ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 46% ・ ・ ・ 23% ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6% 再生促進液 排出完了 自発呼吸開始 全機能正常 実験体 覚醒確認 コンピューターから流れる無感情な音声だけが響く 蛍光色にも似た緑色がかった粘着性の生暖かい液体が、私の全身に纏わりつき身体を起こそうにも手元が滑って冷たい床に突っ伏す その邪魔な液体は、どうやら体内にもあるようで、程なく激しい嘔吐とそれに伴う苦痛に襲われた 『おはよう、』 ずっと恋焦がれ待ちわびた恋人にやっと出会えたかのような嬉しそうな声 両の手を液溜りの床に付き嘔吐を繰り返す私のあごに手を掛け、愛おしげな眼差しを向ける男 『だ・・・だれ・・・・・・』 やっとの思いで声にならない声と言葉を絞り出す 必死に目の前にあるはずの彼の顔を確かめようとするが、緑色の靄がかかってよく見えない 思うように動く事も話す事も出来ない生まれたての赤子のような私を尻目に、彼は満足感に浸っているのが優しく私の髪や顔を撫でる手から伝わってくる 『綺麗だよ、。その力を早くこの目で確かめて見たくて堪らないよ。そうだ、あの男に君を託そう。きっと一番、君の力を理解し、求め、発揮させてくれるだろうからね』 彼の嬉しそうな瞳と歪んだ笑みを称える口元に背筋を凍らせたのを覚えている だが、私はそんな彼の欲望よりも、一体ここはどこで、私はどのような状況下にあるのかが知りたかったが、この身を襲い続ける苦痛は それを彼に問い自身で考える力さえ与えてはくれなかった 『これを飲んで、今はもう少しおやすみ、愛おしい私の』 柔らかく暖かい何かが私の唇にそっと重なる とても優しく、甘く 再びの深い眠りに誘うように 次の目覚めは、驚くほど穏やかだった 柔らかで暖かい日差し、爽やかで優しい風 それらの力を借りつつ、心を落ち着かせながら、記憶を辿る 途切れてしまわないようにゆっくり、ゆっくりと ――――― 『なんだろう、この感じ・・・・・・・・・』 ベッドから立ち上がり、風に気持ちよさそうになびくカーテンを手に取り、空を見つめた いつもと同じ風景 いつもと同じ部屋 いつもと同じ朝 そう感じるのに、"知らない"と心が叫ぶ 『おはようございます、お嬢様。今日は随分とお早いお目覚めですね』 『・・・・・・・・・』 執事・がモーニングティーを手際よくカップに注ぐ 私は心の叫びを黙らせ、ベッドに戻り用意された紅茶に口をつける すっきりとした力強い香りと体内をゆっくりと流れ落ちていく温かさに瞳を閉じる は、その様子を確認すると、クローゼットから赤い軍服一式を取り出した 『本日より、お嬢様はクルーゼ隊への着任となります。ヴェサリウスはプラントへ帰還しておりませんが、クルーゼ隊長とアスラン・ザラ様が本部への報告の為、出頭なさっておりますので、着任のご挨拶をされた後、シャトルへ同行しヴェサリウスへ向かう予定となっております』 『そう・・・わかったわ・・・・・・・・・』 "お嬢様" "ザフト" "ヴェサリウス" "クルーゼ隊" "アスラン・ザラ" どれも周智の言葉で、周智の予定 だがしかし、まるで植付けられた知識で、身体は何も知らない感覚がする なのに、の手によって赤服に袖を通し、ベルトを締められ、軍靴をひざまづき左、右と履かせてくれる行為は、日常のよう 『』 呼びなれたような気がする名前 でも、どこかはじめて口にしたような感覚 『はい、お嬢様』 『貴方は誰?』 『お嬢様の執事でございます。』 『本当に?』 『はい』 『いつから?』 『10年程前からでございます。』 『・・・・・・・・・』 確かに、その通りだ だけど、しっくりこない 何かが違う、これは植付けられた記憶だと心が叫ぶ それはに対してだけじゃない この部屋も、この家自体も、もっと言ってしまえば"お嬢様"と呼ばれる自分さえ違う気がする だが、この時の私にはこの根拠の無い感覚を裏付ける自信もなければ、"これは日常です"と明言する執事・に問い正す自信すらなく、手渡された一錠の赤と黒のカプセルを受け取り、冷たい水でこの全ての想いを薬と共に飲み干すしか術は無かった ******************************************************************************** 再生槽で眠る君は美しかった が、やはりこうして覚醒した君を目にすると、比較にならないほど美しいよ 直、君のために開発させたMSも完成するだろう あぁ・・・早くそれに乗りキラ・ヤマトと戦う君を見たくて仕方ないよ 君に与えた力を引き出せるのは、彼しか居ないだろうからね どれだけの力と美しさを見せてくれるのかな 想像しただけで、こんなにも胸が高鳴るよ 私は君が誰にどのように利用されようが、使われようが一向に構わない 私の夢・研究の成果を見届けさえ出来れば、満足だ あの男の歪んだ欲望に手を貸し、世界を破滅へと導こうとも・・・・・・・・・ by ・ [2012.01.25] |