* 10[断ち切る時] -最終章- |
イザークは移り香に誘われ一度だけ振り返った 振り返った先に目にしたものは… 薄いグレーのワンピース…と言うにはあまりに粗末な一枚のコットン生地を単に縫い合わせただけの囚人服 艶を失った紅い髪は意図もなく伸びた髪先に流れた時を見せていた しかし、廃人同然のその女は男に肩を優しく抱き抱えられると、水を得た魚の様に輝いた笑顔を見せた 「待たせてしまったね、さぁ行こうか…」 エレカから降り立つ黒のスーツに身を包んだ男は穏やかな口調で、その声色は艶やかに澄んでいた 嘗て自分が敬愛していた指揮官に髪も体格も声も口調も全て同じだった 違うのは神々しく輝いて見えた白き仮面、手袋、制服がないと言う事 乗り込む一瞬、肩まである金色の髪から覗いた男の口元が自分に向けて微かに微笑んだように見えた [ZGMF-X13A Providence Gundam] フリーダムとの死闘の末、ジェネシスに巻き込まれた機体 割って入る余地どころか、奪う事も叶わぬものならば、クルーゼから託された言葉の意味を連戦の中、一人で考え導き出した答え "隊長をのもとへ連れ帰る" イザークは辺りを探し、無残に焼け焦げたコックピットから血まみれのクルーゼをプラントにいたのもとへ極秘裏に連れ帰った 既に死んでいるように思えた それでも、自分にしてやれる事ならば…と思った 紅い涙を流しながら、はクルーゼの身体を抱き "イザーク………これから先、どんな事があっても私達には一切関わらないで" と囁いた その後、"ラウ・ル・クルーゼ"の死亡報告が手元に届いた "・"は、反逆罪で拘束、死刑判決が下った 何かをしてやれる力を手にしたのに、何もしてやれない苛立ちが美しい顔の眉間に深い皺を刻んだ 握り締めた拳をなんど壁にぶつけた事か そして、今日の移送は行われる 移送の任を命ぜられ、こうしてここに俺は立っていた 「確かに死刑囚の移送だというのに警護一人居ないのは妙だとは思ったが… 私は貴方方に見事に踊らされたという訳か…っふ」 思い返せば、この二人に俺はいつも翻弄させられた クルーゼ隊長、貴方の手練手管の素晴らしさ 軍医の分際でブリーフィングに同席したりするの扱い さらには、あのナチュラルの女の扱い 情報の有効な使い方をそこに垣間見た気がします そして、 初対面で軍医ごときに"おかっぱで可愛い"と言われぶち切れ、チェスで勝負を挑んだ俺は容赦なく撃沈された。あの時の圧倒的な強さをもう一度と思い挑み続けたが、それ以降、俺にお前は負け続けた。俺は自分の実力だと思っていたが、アスランに意図も簡単に勝てた時、気づかされた 負け続ける勝負の中でお前が俺にした事を… 二度と会う事のない二人の姿にイザークは静かに微かに苦笑し、穏やかな余生になることを祈りながら、今度は二度と振り返らずにその場を後にした プラントに戻ってきてくれたディアッカには、二人は死んだと言う事にしておこう 近くの死刑執行・死亡報告もあがってくるはずだ 「面倒だから墓だけでも作っておくか…」 二人の名と共に俺の想いを眠らせる場所として丁度いい そして、綺麗さっぱり身軽になろう 二人の主の存在を誰も知らない辺境の地にその屋敷はひっそりと建っていた 光と影の対比がくっきりと際立つ中庭には潅木に薄紫の花が咲き乱れ、噎せ返るほどの芳香が当たり一面に漂っていた 「ねぇ、イザークはザフトを欺いた私達を許してくれるかしら?」 「彼は軍規に誰よりも厳しい。が、君を見送るあの表情は許していたと思うがね」 「成長したものね、彼。きっと素敵な男になるわ」 「ほぉ、私の前で他の男を褒めるのかね?」 柔らかな午後の日差しを受けて輝く金色の髪を細く白い指で絡めながら、見据えたその男の顔には、嘗てその大半を覆っていた白き仮面はもうなかった 彼女は私の過去、憎しみ、怒り、黒きそれらとともに白きモノ全て捨てさせた なかったはずの未来とやらを二人静かに愛欲に溺れ過ごす 君の望んだ静穏な世界で… 「そう言えば、私も君の駒だったのかな?ふとそう感じる事があるのだが…」 「さぁね、今となってはどうでもいいことよ。今ここにいる私と貴方は、ただの男と女。この世界に名も存在もなくなった、ただの男と女」 そうだ、もうそんなことどうでもいい 私がどんな形にしろ、この世に生まれた事、そして、今生きている事に彼女は素直に嬉しいと言って涙してくれたのだから 光と闇は表裏一体 だから、闇に喰い尽くされた私だからこそ、君の光は私を喰い始めた 私が君に魅かれたのはそういうことなのだろう? 君を喰らう闇を、今度は私の光が喰う 私の"死"という闇が、食い尽くせない程の強い光の世界を私は君に約束しよう 「私を愛して欲しい…」 男としてだけでなく、ひとりの人として… 「いくらでも愛してあげるわ。これからもずっと…永遠に貴方だけを………」 だけど、その心が、その身体が、その両の手が私の愛で満たされて、零れ落ちてしまう程満たされたら その時は私に貴方の愛を頂戴 愛は見返りを求めないものだけど、やっぱり貴方の愛が欲しい 両の手から零れ落ちる程の貴方の愛が 幾度となく重ねてきた身体 闇に喰われていた情事はいつもどこか冷たく突き刺さる痛みがあった それでも温もりに、身体を貪っている間だけは満たされた しかし、それはすぐに渇いてしまう 全てを捨て真の心が露になった今重ねる肌は熱く、どこまでも心地よい 渇くことなく、満たし続ける 互いの身体が動けなくなるほど、それを確かめた 何度も何度も激しく… こんなにも乱れるモノなのかと自分を疑うほどに激しく… 「イザークに感謝しなくてはな…」 「そうね、いつか二人で"ありがとう"と言いに行きましょう」 「あぁ、そうだな。彼にも…」 ギルバート、君にも礼を言いに行こう 名も存在も消してくれた君に 静寂なる光の世界の創世する君を笑いに [Fin] ******************************************************************************** イザーク、クルーゼ、そして それぞれが背負ってきた過去、痛みを断ち切りました しかし、クルーゼの心はやっぱり真っ白になりきりません あれだけ黒かった心ですから一点ぐらいシミは残るでしょ! 日焼けした肌と同じで!(違 クルーゼを描き終えて、いつになく充実感があります 色々な物を読み、勉強?し、考えた今回の作品 稚拙ながらもすごく頑張りました!と胸を張れる気がします 最後までご愛読頂きました読者の皆様、有難うございました 2009.4.23 [神威] |