* 07[真意探求]




昔々、ある国に野蛮な王様がいた
命令違反した若者を王様は呼び出した

王様の溺愛する姫はその若者に心を寄せていた
それを知っている王様は若者に其の罰として

"お前は、目の前の扉のどちらかを開けなければならない"

1つには虎が、1つにはその国で最も美しい娘が隠されている
もし、娘の扉を開ける事が出来たなら、罪を許しその娘を花嫁として迎える事ができると告げた

姫はその扉の向こうを見ることが出来た
腹を空かせ獲物を今か今かと鋭い爪と牙を研ぐ虎に心を寄せる彼が頭から噛み砕かれ、肉を引き裂かれる光景を想像すると失神しそうになった
しかし、自分よりも遥かに美しい娘と一緒になる彼を想像すると嫉妬で気が狂いそうになる
この秘密を若者に教えるべきかどうか迷ったが、王様にわからない様に姫はそっと若者に手の動きで伝え、若者は扉を開いた


「姫は果たしてどちらの扉を教えたのかな?そして、若者が開けた扉からは何が出てきたのかな?イザーク、君はどう思う?」

隊長は自分のに対する愛を試している
後ろ手に拘束され、その胸に抱かれているさえも同じ問いを投げかけているように感じる

様々な思考、思想、感情で頭が、心が今にもオーバーヒートを起こしそうだ
ただ静かに答えのでるのを待つ二人の視線が突き刺さる
俺はこんなに優柔不断だったのか…

時だけが苦悩するイザークを嘲笑うように流れていく


「どちらの扉も選ばなかった、開けなかったと考えます」
「ほぉ…、それはどういう事かね?」
「扉を選ぶこと自体、王に弄ばれている。愛は誰かを楽しませる為にあるのではない。だから、自分が姫なら若者が入ってきた扉を指差し、自分が若者なら姫を見ることなく自分が入ってきた扉から出て行きます。」

それがイザーク・ジュールが出した答えだった
配属されたときは、まだ幼さを残し、ただナチュラルを憎み好戦的で上に忠実なザフトレッドに身を包む若者だったのに、イザークらしい誇り高い答えを出すまでに成長していた

「イザーク、君は良い指揮官になれそうだ。だが、その場に残される姫はどうなるのか考えたかな?そのような暴虐な王だ、溺愛していたとは言え残される姫もただでは済むまい」
「それは……っ…」
「まぁ良い。君の愛とやらは素晴らしく誇り高いと良くわかった。イザーク、そんな君にしか頼めない事があるのだが、聞いてもらえると助かるのだが…」
「は、はい!」

一糸乱れぬ美しいプラチナ色の髪から覗く耳にクルーゼはそっと囁いた
には聞こえない程の小さな声で

ディアナを君なりの愛で支えてやってくれたまえ。もし、私が君より先に死ぬ事があれば尚更。

意外なクルーゼの頼みにイザークは驚き目を見開いた
が、それと同時にクルーゼのゆったりと甘く艶やかな声で囁かれた頼みに完全な敗北を覚えた
を連れその場を後にするクルーゼに、イザークは軍人としてだけでなく、人として、男として自分はまだまだ小さいとその白く大きな背に感じた




「さて、。君はもう軍医ではない。ただの犯罪者だ」

隊長室の椅子に凭れ、徐に手袋と仮面を外す
には何も隠す事はないとでも言うように

「これで24時間堂々と私を拘束できると言うわけね」

苦笑するに、襟を緩めながら酷薄な微笑を浮かべる

「嬉しいよ、君をこの部屋に閉じ込めておけると思うと。仕事とは言え君が他の男に微笑み、傷を癒す為と言い触れるのさえ快く思っていなかったからね。心の狭い、つまらない男と笑ってくれても構わんよ。」

薬を水でその醜い体内に流し込む
青と白の薬を飲む度、己の闇が濃くなる

「さっき、イザークに何を言ったの?」
「君が私とのゲームに勝てばわかる話さ」

君が勝たねば君自身も彼もこの世界に渦巻く闇に喰われ、死ぬ
私がイザークに託した望みを知ることなく
知りたければ、勝つ事だ。この私の闇に…

「勝たせはしないがね」
「勝って、何を言ったのか教えてもらうわ。私はなんでも知りたい性格なの、必ずね」
「ふん………傲慢だね。君はいつでも」

己の運命、生すら呪い、この世界と己の破滅のみを願う黒く醜い欲望だけが渦巻く胸
誰かを愛する事なく、愛される事もなくここまで来たというのに
"人とはどこまでも滑稽で傲慢な生き物だな"


「ねえ、ラウ」
「なんだね?」
「ラウならどうするの?王のとった暴虐な問いに」

の白い指が仮面を外したクルーゼの顔をそっとなぞる
冷たいその指先に心地よさを感じる

「私なら虎の入った扉を教え、虎の入った扉を開けるが、娘の入った扉も開ける。そして、その虎に娘を食らわせ、王をも食らわせる。放たれた虎はその空腹が満たされるまで食らい続ける。そう思うがね」

口の端を吊り上げて笑う
は予想はしていたが、その冷酷無比な闇に背筋が凍る気がした
しかし、その感覚すら心地よく感じるようになっている自分がいる

「流石ね。人間の飽くなき欲望と醜い嫉妬を良く知っているのね」
「私はその結果だからね」
「そんなラウが私は好きよ」

本心を語らず、でも、本心を語っている
言葉遊びを楽しむかのような会話を交わす時の中で決して普段、見せることのない穏やかで柔らかく微笑するクルーゼの素顔をなぞるの指先は彼女なりの"幸福"を感じていただろう
そして、クルーゼもまたの冷たい指先に彼なりの"幸福"を感じていただろう

この世界で最も儚く脆い"幸福"を





********************************************************************************

参考文献:Frank Richard Stockton著[The Lady, or the Tiger?]

史上最も有名なリドルストーリーを題材にして、話を進めてみました
正確な話の内容を知りたい方は「女か虎か」で検索してください
大幅に端折って書いてますから

本当ならばは、最もイザークらしい"虎の入っている扉を開き、虎を殺す"的なのがよかったのでしょうが…
ここは私の描いた卑怯?とも言える結末を言わせました
あしからず…
しかし、作者ストックトンは『王女がいずれかに決めたという疑問は軽々しく考慮すべき問題ではないし、作者はこれに答えうる唯一の人間だとうぬぼれる気はない。そこで、作者は、すべての解釈を読者に委ねる。開かれた扉からは、どちらが現れたであろうか――女か、それとも虎か?』と言っています
という事はクルーゼの出した結末のがこのお話の結末には相応しいのかもしれませんね

貴女ならどういう結末を描きますか?