* 06[相反する意思]




人が虎を殺そうとする場合には、人はそれをスポーツだといい、
虎が人を殺そうとする場合には、人はそれを獰猛だという
では、この殺戮は正義か罪悪か・・・

グングニールで動けなくなった地球軍の機体、投降したナチュラルを容赦なく撃ち殺す様にイザーク・ジュールの胸にザフトへの疑念を残した

「優秀な指揮官は狡猾で冷酷な人間よ」

恍惚な面持ちで艦を歩くイザークにかけられたその言葉にはっとした
必要なときに必要な言葉をいつもかけるに、軍医以上の気持ちを持つのは俺だけではないだろう
常に緊張を強いられ、命のやり取りをしている現場において唯一とも言える癒しの存在の言葉は過剰な想いを時に抱かせる

「アレは戦争とは言えない、唯の虐殺だ…」

怒りを押し殺しながら呟く
しばらく拳を握り締めその場に立ち尽くした
様々な考えが脳裏を過ぎったが、はイザークに何も言う事が出来なかった

戦争は、血で血を洗う虐殺を繰り広げる事も稀ではない

はイザークの額に自らの額をあてがった
突然の行為に驚き、一瞬身じろいだが、波打つ鼓動の共に流れ込む温かさと優しの心に浸った
何も語らなくても言葉にできない思考、想いを感じる事ができた

その頬が、唇が触れそうな程近くにあった
これ以上間近にその顔を見ていたら、自制心の箍も吹っ飛んでしまいそうだった
に迂闊に手を出し、嫌われてしまえば全てが終わってしまいそうで怖かった

「互いの正義の為に戦い、その正義は決して合い入れる事はない。ならば、どうやって終わらせる?どうすればこの果て無き戦いは終わると思う?」
「・・・・・・」

の身体が放つ甘い香りにイザークは包まれながら、静かにゆっくりと語るその赤く濡れた唇に吸い込まれそうになる

「人の犯す大罪は・・・一生に一度なら許されるだろうか?」

の顔が離れ、額に冷たい空気を感じる
真紅の髪から覗く髪に負けないぐらい紅い瞳は哀しみとほんの少しの冷美との混じった優しい微笑みを浮かべていた

「貴様、何を・・・」

この訳のわからない危うい感じは・・・
それ以上の言葉を発する事も出来ず、ただ小波のような気の乱れと、息を呑む音だけが微かに狭い艦の通路に響く

その顔は艶がなく、青褪めていた。連戦続きだ、軍医とは言え疲れて当然だったが、扇状にひろがる長く豊な睫から覗く瞳はそれ以外のことに縛られ、その苦しさに揺らいで見えた
大きなため息と甘い香りを残し、突如身を翻しイザークに背を向け歩みを進めた

「ちょっと待て!」

の肩を掴む手の強さに態勢を崩しかけ、それを支えるイザークの思いの外鍛えられた逞しい胸に抱かれる形となった

「好きだ」

力と想いを込めて抱きしめた
この腕の中に閉じ込めるように

「クルーゼ隊長とどんな関係なのか知らないわけじゃない。だが、隊長と居る時の貴様は辛そうだ。好きな女のそんな顔見て黙っていられる程俺はお人好しじゃない・・・俺のところへ来い、俺が…」

最後まで聞かずにはその優しく激しい想いを告げる唇をそっと塞いだ
頬を伝う生暖かい雫が重なった唇の隙間を縫って舌にほろ苦い味を届ける

「ありがとうイザーク。でも、わかって…」
「何をどうわかれと言うんだ!」
「一度愛してしまったら、愛されてしまったら…もう引き返せないのよ、私たちは…」

力任せにの小さい身体を壁に押し付け、再び唇を重さね、押し開き柔らかく湿ったモノを滑り込ませる
心の全てを注ぎ込む為に

「っぁ…」

吐息とも喘ぎともつかない微かな声をあげるの舌を絡め取り深く蹂躙する
自制心の箍の外れたイザークはこのままここで力ずくでも、という愛しい身体の快楽に溺れてしまいそうな勢いだった

「快楽が欲しいならあげるわ。だけど、私は…ラウしか愛せないのよ、この先何があっても、永遠にラウしか・・・」

柔らかく甘い香りの立ち上る白い肌に舌を這わせるイザーク
そのアイスブルーの瞳にの苦悩の色に揺れる瞳がはっきりと告げる

現実はどこまでも非情で・・・残酷・・・

の肩越しに激しく打ちつけられた拳に壁は歪み、血が滲んだ
拳の痛みは心の痛みに比べればどうってことはなく、逆に辛うじて平静を保つのに必要な痛みになっている

互いの決意を秘めた視線を絡ませたまま、そこだけ時が止まってしまったかの様に…


「そこで何をしているのかね?」

クルーゼの冷徹な声が沈黙を破った
はその声に表情一つ変えず、イザークに視線を向けたままで
また、イザークは憎悪にも似た視線をクルーゼに向けた

「俺は、大切な女に辛い顔をさせるような愛し方を認められない」
「イザーク、君はを愛しているとでも言うのかね?」

仮面で覆わているが為にその目の表情までは読み取れないが、確かにその口元は笑みを称えていた
不気味なまでに静かな笑みを

「はい、愛しています」

真っ直ぐで穢れのない眼差しは、クルーゼから見ても眩しいぐらいの光を放っていた
しかし、その光もすぐに闇に飲み込まれた

「それは残念だ、は国家反逆罪で拘束命令が出ていてね…」
「っ!反逆罪…」
「私も愛しいをむざむざとプラントに引渡す事はせず、私の部屋に留め置き様子を伺おうかと思ったのだが、イザークが好意を抱いていると言うのならあまり好ましくないな…私も君に要らぬ嫉妬をされたくないからね」

クルーゼの人を仕向ける怜悧な物言いには顔を歪めた
自分に拘束命令が出たのは確かだろう
歌姫がフリーダムを手渡しスピットブレイクの失敗からクライン派が情報漏洩したと粛清にパトリック・ザラが乗り出したのだろう
またしても、クルーゼに一手越された

辛辣を極めた言葉、イザークは選択の余地もなく、それどころかクルーゼの手管手練に敵うはずがなかった

「い、いいえ…隊長の部屋で拘束なさるのが最善かと…」
「君はそれで良いのかね?私も生身の男だ。愛しいを手元に置くという事が何を示すか君にもわかるだろう?大事なエースの心を乱す真似はしたくないのだが…」
「…っ!!」
「ラウ、これ以上は止めて」

はその身を掴みようのない風のようにイザークの元をすり抜け、クルーゼの元へ戻り、イザークからクルーゼを引き離すように腕を引っ張った

「イザーク、貴方は私の医師としての話術に取り込まれて幻想を見たの。それだけよ」
「違う!俺は…」
「貴方も男なら、いい加減にしなさい!」

後になって、"人の犯す大罪は一生に一度なら許されるのか?"の問いの意味を、そして引き返せない訳を痛いほど思い知らせれるのだが、まだこの時は何もわからず、ただ自分の無力さ、不甲斐なさに苛立ちを覚えるだけだった




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イザークいっぱ〜い書けて楽しかったぁ♪
クルーゼの手管手練に敵うのは口の上手い陽気なバルトフェルドでしょうか?
対決させてみたいですね
面白い会話が聞けそう
私には描けませんけど…