* 05[連想的記憶]




人の飽くなき欲望の果てに私は、己の死すら、金で買えると思い上がった愚か者の出来損ないのクローン
だからこそ、この宇宙でただ一人、全ての人類を裁く権利を持つ

私の愛した君に見せてあげよう、命を大事と言いながら弄び殺し合うこの世界の終焉を・・・


「ラウ、貴方は世界までも滅ぼしてしまおうと言うの?」
「私はこの果てしなき欲望の世界で思い上がった者達の望みのままの舞台の幕を上げてやったまでだ。私が滅ぼすのではない。愚か者達が自ら育てた闇に食われて滅びるのだよ」

の顔が悲痛に歪む
クルーゼのじっとりと汗で濡れる背にの爪が食い込む

「世界を道連れにして死ぬと言うの?世界中の罪もない人々を道連れに…人の愛をも知らずに…」

激しく攻め立てられながらも必死に抗い囁くその声は、クルーゼの心を揺さぶる
眩しすぎるほど気高い君に眩暈すら覚えた
深い闇に身を置く私の元に射した一筋の光
もっと早く、君に出会っていたなら…

「ふん、何を手にしたとて、何も変わりはしないさ。たとえ君を手にしたところで、私の憎しみを止める術などありはしないさ」

生まれたその時から何も世界の終焉を願ったわけじゃない
醜い私とて、夢を見た事もあったさ
極ありふれた夢というものを
だが、私の望む道の先には何もないと知ったのだよ
今、こうして君との未来を夢見たところで、私に残された時間は短くやはり先はないと

「それとも、ここで私を殺すかね?」

先刻、あれだけの事実を知らされながらも、諦めようともせず、新たな翼を舞い下ろした君の事だ、私の闇に喰われたところでその光を翳らせる事はないだろう
強すぎる光は影を濃くするだけだ
愛するお前の手を私の血で染め、永遠にその心に住むのも悪くない

、皮肉なものだな。君は人を救う医者。そして私は人を殺す軍人だ」
「ラウ、私と勝負しましょう。世界と言う巨大なチェス盤の上で人という駒を使って壮大な勝負を」
「ふむ、私と君とでかね?」
「そうよ、私の描く未来と貴方の描く未来をかけて。面白いでしょ?」
「興味をそそられる勝負だな。受けて立とう。ただし、勝負が付くその時まで私は君を手放なしはしないよ、決して」

私の愛しい、いつまでその気高さを保てるかな?
楽しみだよ、私の愛しいが勝負が付いた時どんな顔を見せてくれるのか
気高いその心から光が消える瞬間、どんな声で哭くのか知る為にも




「しかし、これだけの戦力でパナマを落とせだなどと、本国も無茶を言う」
「しかたありますまい。アラスカで調子に乗った奴等の足下を掬っておかねば、議長もプラントも危ない。宇宙への門を閉ざし、奴等を地球に閉じこめる。その為にもパナマのマスドライバーは潰しておかねば…」
「グングニールは?」
「予定通りです」
「問題はこちらだな。降下までに目標地点を制圧できるかね? 」
「アラスカの弔い合戦と皆息巻いております、するんですよ」

壁に凭れ涼しい顔でその様子を見つめるにクルーゼはにやりと口の端を上げ笑った
その不敵な笑みに、は"新たなる幕開け"にするつもりだと直感した
本来、グングニールは無血を目的として彼女たちが準備を進めていたものだったが、この状況ではきっとただの虐殺兵器となってしまう

「そんな顔をするな、私の可愛い

辛辣な表情を浮かべるの柔らかく豊な髪がその白い手袋に絡まる
耳元で囁かれた言葉だったが、狭い場所では艦長はじめ居合わせたクルーに筒抜けだったまわりの目を気にせず、抱き寄せたり唇を重ねたりと節操のないクルーゼではあったが、その立ち振る舞いの華麗さからか、それとも畏怖の念からか誰も何も言わなかった

「無差別な殺戮をしないよう、指示を徹底してもらいたいわね」

髪を弄ぶその手を振り払い、は逆にクルーゼの髪に手を添えた
二人の間に広がる壮大なチェス盤
愛を確かめ合うように絡まる視線は、その数手先を読み合う





「少しは落ち着いたかしら?フレイ・アルスター」

クルーゼがアラスカ基地から連れ帰った地球軍の少女は、精一杯の虚勢を張りクルーゼに銃口を向けはしたがその引き金を引く事はできなかった。その小さな手で顔を覆い声を放って泣き崩れ、私の元に預けられた
どれぐらい泣いていただろう
突然連れてこられた敵軍の中で、少女には恐怖しかないだろう
は何も声も掛けず、ただ泣き止むまでひたすら待っていた

「コーディネーターが怖い?憎い?」
「…ぁ……っ」

ザフトの艦で地球軍の軍服を身に纏う少女の瞳が揺れる

「私…どう…なるんですか?」

か細い声は不安でいっぱいだ
風が吹けば折れてしまいそうに

「さぁね、私にはわからないわ。ただ、あの人の事だから無闇に殺されたりすることはないんじゃないかしら。貴女が馬鹿な事しなければ…ね」

少女の経歴を映し出すモニターにため息を漏らしつつも、用意したザフトの制服を手渡す微かに触れた手は、同じ人間の暖かさと柔らかい感触がした

「その格好だと何かと目立つからこれに着替えてもらえると…ザフトの制服なんて着たくないでしょうけど…」

父親を殺したザフトの制服に身を包む事ほど、屈辱はないだろう
しかし、アラスカの報復に意気込む今の状況下では恰好の標的となり兼ねない
渡された緑色の制服を握り締めるその手の怒りは、理解できたが仕方のない事なのだ

「あ、あの…」
「何?」
「なんで、貴女も私に優しく・・・」

"貴女も"
の心をその一言が鋭く突き刺さった

「貴女はあの人を"優しい"と感じるのかしら?私が優しくするのは医者だからよ。私にはナチュラルもコーディネーターも関係ない。患者は患者にしかすぎないわ。だけど、あの人はどうなのかしらね?軍人のあの人には・・・」

"鍵"と呼んだ少女
クルーゼの新たな駒
どんな使い方をするのかわからなかったが、彼に拾われてしまった不運に同情を覚え、その運命が悲運にならないことを願った

「部屋を用意したからそこで一人で居れるわね?これ飲んで、今は少しでも寝る事をすすめるわ。ラウの言う通り軍服は着ていても兵士ではない貴女に、この悲惨なだけの戦闘をその目に映し、その手を復讐に染めるのは似合わないわ」

小さな錠剤を震えのとまった手に渡す
フレイの顔からは少し恐怖が消え、心の内もある程度整理がついた様だった
コーディネーターであるに殺気立ったものを見せることもなく、フレイは安堵にもにた気持ちを感じていた
それはの医者としての卓越した技のなせる事なのか、それとも・・・


パナマ攻略戦はグングニールの投下により、多くのナチュラルの血の元にその幕を閉じた
それぞれの胸に疑念、期待という記憶を残して・・・




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御題提供:‡decadence‡痛切御題[永劫の鎖10]より


さぁ、ゲーム開始です
自らの意思を持ち、勝手に動く駒たちをクルーゼ、それぞれが
どのような思惑で動かしゲームを進めていくのでしょう
交わされる一見美しく甘い言葉の裏に潜む悪意 そして 愛
そんな二人の関係にまだまだ幼いイザークはどうするのか?

うふふふふ…

次回はイザーク全開ですよ
だから、今回いないのはキニシナイ キニシナイ