* 01[永劫の鎖] |
搭乗口から暗い内部を横切って差し込んでいる太陽光線に視線を落とした 光の中で埃の粒が輝いていた。海には小波が立ち、頬を撫でる風は冷たかった 「貴様ぁ!どの面下げて戻って来た!」 「ストライクは討ったさ…」 オーブの人道的救援により無事戻ったアスラン・ザラは静かに迎えに来たイザークに囁いた ニコルがストライクに討たれた時、誰よりも怒りと哀しみを露にしぶつかって来たイザーク。その恨みをはらしたアスランにまたひとつ信頼を深め、無事戻った背中を"よくやったな"と言葉にならない思いで見つめた 「ずいぶん対応が遅かったわね、ラウ」 甘い魅力的な声、たおやかに波打つ真紅の髪から覗く横顔は冷美でその同じ色の瞳は怒りの色を見せていた 「そう怖い顔をするな、。私は何も遊んでいた訳ではないのだから」 「スピリットブレイク、何をするつもりなの?」 赤とは言えまだ幼い彼らにアークエンジェルとストライク追撃を託したラウ・ル・クルーゼ。しかし、何か隠すように動いているクルーゼにディアナは聞かされている作戦と実行される作戦は違うのではないかと疑念を抱いていた 軍医・は、心理学を得意とし卓越した洞察力で、戦闘で心に傷を負った多くの兵士をその身体の傷と共に癒していた。そして、素顔を仮面で隠すラウ・ル・クルーゼの恋人ではないかと噂を立てられている人物だった。 「本当に軍医にしておくのは惜しい人材だよ、君は」 「戦争の駒にされるなんて、私はごめんよ」 血の思わせる瞳はクルーゼの仮面の下の素顔を的確に捉え、その金色の波打つ髪に細い指を潜らせその白い仮面に指を這わせた。 病室から望めるカーペンタリア基地には、夕日が最後の光色を放ち西の海に沈み、キラキラした琥珀色の光を投げかけ美しかった。しかし、アスランの瞳の中にまだ鮮やかに残る惨劇だけを映し景色は見えてなかった。 "身体の傷は治してあげられても、その心の傷は治してあげられない。滔々と血を流す心の傷だけは…" 軍医・の優しい言葉にアスランの胸にある哀しみが、更に胸を抉った。 「クルーゼだ、入るぞ」 『隊長…』 『そのままでよい。』 『申し訳ありません…』 『いや、報告は聞いた。君はよくやってくれたよ。』 『いいえ…。』 『私こそ対応が遅れてすまなかったな。確かに犠牲も大きかったが、それもやむを得ん。それほどに強敵だったということだ。君の友人は。』 は閉められた病室のドアに背を凭れ、ドア越しに聞こえてくる傷ついたアスランを労うクルーゼの巧みな言葉に、真珠に近い色をした歯で自らの淡い色をした唇を噛み締め傷つ滲む血の味がアスランの心の傷から流れる血のように感じられた。 「可哀相な子…」 は喉を詰まらせ呟いた。 拳を握り締め、その白い裾を翻した廊下の先には、プラチナ色の髪を夕日に眩いばかりに輝かせるイザークがこちらに向かって歩いてきた。 「一人ぼっちじゃなくなったと思ったら、また一人ぼっちになっちゃうわね」 「…っち!またお前か……」 「本当、いつ逢っても可愛くないわね、君」 イザークの顔に残した傷を指で準えた。美しい瞳が間近に近づいた事に、イザークは血潮がさっとその頬に上るのを感じていた 「アスランなら、今クルーゼ隊長と話し中よ」 背中越しに手を軽く振りさっさと背を向けて歩き出した 「おい、ちょっと待て!」 「特務に行ったら、次いつ逢えるかわからないんだから、素直に伝えなさいよ。"仲間"なんでしょ」 は背を向けたまま、イザークに手を振ってみせた。夕日のせいで、その真紅の髪は余計赤みを増してキラキラと輝いき、姿は消えてもその煌きにイザークは想いを募らせた 「どうした、イザーク」 不意に背中からかけられたクルーゼの声に我を取り戻し、姿勢を正した 「いえ、あいつの様子を見に…」 「そうか、君にも知らせておかねばならないな。アスランは特務隊への転属が決まっている」 「っ!あいつが特務!!」 「そう、驚く事もあるまい。あのストライクを討ったのだから。しかし、これで我が隊にはイザーク、君だけとなるな…今まで以上に君には期待しているよ」 「は、はい!もちろんです!!」 不敵な笑みを口元に浮かべるクルーゼにイザークは気づかず、ただ期待された喜びに目を輝かせた。 「あ、あの隊長。あの軍医、何故いつも同行させているんですか?」 「あぁ、か…君は知らないかもしれないが、彼女はかつて少しは名の知れた国防委員会の文官としてその腕を振るっていたのだが、残念ながら今は、医師としての道を選んでしまってね…」 「紫…」 「戦略に優れた尊敬すべき軍人だったのだよ」 クルーゼはその仮面と共に感情を表さないその冷徹な口調で語り、イザークの肩をひとつ叩きブリーフィングルームに歩みを進めた イザークの身体に戦慄が走るのをクルーゼは感じ取っていた。それは、彼が彼女に抱く想いを感じ取ったのと同時の事だった まもなく発動されるオペレーション・スピットブレイクに向けてザフト軍は準備を着々と進めていた。ここ数日輸送機が絶え間なくMSやら弾薬やら忙しく運び込まれていた。地球軍もすでにこの動きを察知し大規模な作戦が行われると予測しているはずだ。イザークもまた整備の進む愛機デュエルを見上げ様々な思いを整理しきれずにいた クルーゼはアラスカの偵察に向かっていた その艦内では丁寧に隊長自ら兵士たちにアラスカの重要性、その堅牢な守り故の難しさを説明していた 「が、今回のこの偵察も、特務故守秘義務が課せられている。誰かに冒険譚を聞かせたくとも戦後まで待てよ。」 と締めくくり、兵士たちは覇気ある返事をしブリーフィングルームを後にする彼らにクルーゼが呟いた声は聞こえてなかった 「女医、あとでまた話聞いてもらえますか?」 「えぇ、いいわよ。いつでもいらっしゃい。夜以外ならね」 兵士達は彼女の妖艶さに魅せられてはいたが、近寄らせない雰囲気を出しているに手を出すものは誰独り居なかった。それは、兵士達の話をいつも親身に耳を傾け聞いてくれる事とそして的確な助言をくれる事で得た信頼も大きく影響していた 「本当どこから情報は漏れるかわからないわね、ラウ」 その鋭い言葉は何か別のことを告げていた。は濃く広がる闇の海に目を向け、燦然と違いの何も見えない閉ざされた空間で、クルーゼの抱く目論見を確かめようと血のように赫い瞳をその仮面に映した 「、君はいつもそうやって全てを知りたがるな」 「えぇ、知りたいわ。貴方のやろうとしている事全てを」 湧いてくる僅かな危惧の念を押し殺しは続けた 「人の心は複雑なのよ。幾通りの想いがあり、しかもその間を揺れ動く。誰でも否応なくそれぞれの過去を背負ってね」 「厄介なものだな」 繊細な顔つきで眉を寄せ訝しがるをクルーゼは抱き寄せた その高僧のように威厳のある知的な顔、そして逞しい胸から伝わる憎悪、執念のような復讐心。生への強い肯定。はその心を恐れた 「早く本当に早く終わらせたいものだな、こんな戦争は」 「そうね…本当に終わらせたいわね」 クルーゼの顔や喉にかかる吐息は甘い香りがした 「…」 耳元で囁かれる声はどこまでも甘い の細い指先が、クルーゼの髪の中に潜りそのまま円を描きながら、耳の後ろや耳朶を軽く撫で、その仮面を外した 露になったクルーゼの瞳に血のように赫い瞳は心の全てを注ぎ込む為に 「私は貴方をこんなに愛しているのに、貴方は…」 震え声で囁いた 「私も愛しているさ、君の事を」 「嘘つき…」 クルーゼがの細く震える白い喉や肩、胸の谷間に口を付ける度に吐息とも喘ぎともつかない微かな声をあげる。愛される中でも、はクルーゼのあまりに深い孤独を感じ、その憎しみに心を裂かれ、それは一滴の雫となりその頬を伝った ******************************************************************************** 御題提供:‡decadence‡痛切御題[永劫の鎖10]より クルーゼはかなり難関な人物なので、執筆に時間を要します 今回は思いつきの流れではなく、すでに構想完成してます それでも一文書くのに時間を要してます 心理学とか哲学の本など読んだり調べたりしてますが、催眠効果が強く 先に進んでいませんw ニーチェの永劫回帰とか良く眠れる! 気長にお付き合い下さいませ |